された作品である。漢文調の格調高い文体とユーモラスに語る独特の文体を巧みに使い分けている。中島敦は作品を21作しか残さなかったが、中島敦研究はますます盛んになっている。彼の小説には本質的な新たな境地があると指摘した者がいる。この「本質的な新たな境地」とは中島敦がしっかりした漢学教養により、歴史人物の立場を深く理解して、その人物を通して生命存在の意味に対する懐疑を言い出したことにある。実は、私が中島敦という名を知ったのは院生の文学鑑賞授業のときである。その時は、完全に中島敦の小説である『山月記』の中にかき立てられた悲劇的な雰囲気に驚愕させられた。その雰囲気はあたかも月下に仲間を失った狼の吠える悲しさのようである。『山月記』は李徴が虎になった物語である。本小説は明らかにした悲劇的な彩りを帯びている。この作品は僅々数ページ、原稿用紙にしても数十枚程度の分量の作品であるが、その中に埋め込まれた意味は、その何倍の分量でも解説しきれない小説であった。私は何遍も繰り返して通読した。でも、余韻がなかなかさめない。それから、中島敦のすべての小説を読んだ。その中で、もう一度私の心を強く打った小説は『李陵』である。この小説は中国の歴史を素材にした作品である。文中は三人の歴史人物第1章はじめに 2 の記述を通して、作者の強大な感情の基礎および彼の身をもっての履歴を作品に融合させた。そういう理由から、この作品は生き生きしていて、躍如としている。このように院生時代からずっと中島敦の小説に夢中なっている。その作品に孕まれた「不安」、この「不安」から派生した克服方法の探索、及びこの探索を通して提示された前向きな勇気にはいつも私は絆されているのである。そこで、本論文は『山月記』と『李陵』この二作品の人物を分析して、作品における「不安意識」及びこの意識が作者にもたらされた積極的な影響を明らかにしたいと考える。
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